船橋市 税理士の道筋
何のための財政支出かを考えるという点では、「ヘリコプター・マネー」や「定額給付金」より「政府紙幣」の方が少しはましかも知れないが、こちらは財政資金調達の在り方として、根本的な問題がある。
現在、政府は五百円玉以下のコインを鋳造している。
これらのコインは、鋳造したあと日本銀行に預けられ、国民のコインに対する需要に応じて日本銀行から一般の市中に流通していく。
この流通残高は○八年末現在四・五兆円であり、日本銀行券(おサツ〈札〉)の流通高八四兆円の約二〇分の一である。
この場合、政府はコインを沢山鋳造して財政支出の増加を賄おうとしても、コインの流通残高は国民のニーズによって決まるので、勝手に増やす訳にはいかない。
そこで、国民のニーズがもっとある「政府紙幣」を印刷して日本銀行に預け、現在日本銀行券で賄われている「お札」に対するニーズに応えて流通させようというのである。
これは、「政府紙幣」という名の「償還期限のない無利息の国債」を日本銀行に引き受けさせ、その代金を日本銀行にある政府預金に振り込ませた上、財政支出として政府預金からじゃんじゃん支払おうという構想である。
かつて昭和恐慌の時、T蔵相が不況克服のための一時的手段として国債を日銀に引き受けさせ、財政支出を拡大した結果、一定の成果を挙げた。
しかし、そのことによって財政の規律が失われ、一時的手段が恒久的手段となって軍備の拡張に使われ、太平洋戦争に突入した苦い経験がある。
この時国内では、際限のない財政支出の拡大で表面には出ない「サプレストーインフレーション」が起こった。
それが戦後表面化し、「ギャロッピングーインフレーション」となった。
この苦い経験に鑑み、戦後の財政法では、日本銀行の国債引き受けは禁じられている。
「政府紙幣」構想とは、この「禁じ手」を使おうという構想である。
しかも、期限と利息の付いた一般の国債ではなく、無期限、無利息の国債、すなわち政府紙幣を使おうというのである。
財政規律はどこかに吹き飛んでしまうであろう。
このようなことを、国民も、国民の代表である国会も認めるはずはないが、新聞報道によると、○九年初め頃、自民党の内部で検討する動きがあったという。
空恐ろしいことである。
「ヘリコプター・マネー」にしろ、「政府紙幣」にしろ、仮に実行されて多額の財政支出が行われれば、収益率の高い投資対象が乏しい不況下にあっては、供給に限界のある土地などの資産や、金などの貴金属、絵画、骨董などに対する投機が起こり、バブルやインフレが発生するであろう。
不況下のバブルやインフレは、一般の国民の生活にとっては、実質所得の減少と雇用不安のダブルーパンチで苦しめられるだけである。
その上、投機に成功した人と一般の人との間に不公平な資産、所得の格差が拡大する。
「ヘリコプター・マネー」も「政府紙幣」も冗談ならともかく、真面目に検討するような内需刺激策ではない。
「無利子非課税国債」の発行(?)。
○九年の総選挙を控えて、自民党の内部では、「政府紙幣」構想と並んで、「無利子非課税国債」構想も検討されたと伝えられる。
「無利子非課税国債」は、「無利子」なので一般の投資対象としては何の魅力もないが、相続の際に「相続税をゼロ」にするという点に味噌がある。
この国債の発行には、二つの狙いがある。
一つは、相続税を逃れるために「タンス預金」となっている現金がこの国債に向かって出てくるので、「アイドルーバランス」(投資に向かわず退蔵されている貯蓄残高)となっていた貯蓄を財政支出に振り向け、経済を活性化するのに役立つ、と言うのである。
「タンス預金」は一説では三〇兆円あると言われているが、もし本当だとしても、何か理由があって隠しておきたい金に相違ない。
それが税務署に見付かる危険をおかして国債の購入に向かうかどうかやや疑問である。
そのような闇の金ではなく、高齢者が保有し、税務署にも申告している金融資産が、相続税を免れるために、この国債に向かってくることはあり得るであろう。
しかし、これは資産家優遇の政策であり、相続税を払わずに一夜にして資産家になる人と一般の人々との間に、「事前の格差」を生み出す。
これは、日本国民の機会均等に反する不公平な政策である。
もう一つの狙いは、この国債は無利子であるため、発行を増やしても利払い負担が増えないことである。
しかし、これによって政府の歳出予算の中の「国債費」の増加を抑えたとしても、歳入予算の側では相続税の収入が減る。
国債の利子よりも相続税の税率の方が高いので、歳出入を比べると、歳入の減少の方が歳出の減少よりも大きいであろう。
そもそもこの国債を買う人は、無利子であることによる収入減よりも、相続税減税額の方が大きいから買うのである。
従って、歳入の減少の方が歳出の減少より大きくなるのは当たり前である。
二つの狙いは、見当外れであったり、不公平であったりするので、この「無利子非課税国債」の構想もまた、不適切である。
戦略目標は実質GNI。
内需主導、対外資産の効率的運用、交易利得の拡大で実質国民所得を増やす。
内需刺激は環境対策とセイフティーネットの強化で やや脇道に逸れたが、ここで本筋に戻ろう。
輸出に代わってこれから日本経済の発展を引っ張るのは何であろうか。
それは、国民生活の向上に密着した国内需要の持続的増加、海外投資の効率化による海外からの所得純受取の増加、および、名目円レートの円高に伴う交易利得の拡大、の三つである。
あとの二つは、日本の「ものづくり立国」のための海外戦略と関連している。
日本の国内には、米国のようなバブルの破裂による住宅価格の下落や家計の膨大な不良債務は存在しないので、米国のO大統領が景気対策法で準備したように、GDPの五・五%に相当する二年間七八七〇億ドル(約七五兆円)の大型財政出動を行えば、内需は米国よりも先に間違いなく立ち直ってくるであろう。
A政権は、○八年度の第一次・第二次補正予算と○九年度当初予算で合計一一・三兆円の財政支出(真水)を用意し、更に一四・六兆円の財政支出(融資を含む)を含む○九年度補正予算を成立させた。
単純に合計すると二五・九兆円(GDPの五・二%)である。
民主党は、政権につけば、今後二年間に二一兆円の財政支出を追加すると公約した。
両党とも規模としては米国に匹敵する。
問題は中身である。
民主党のO代表(当時)は、○九年一月の党大会で、「環境のニューディール」と「安全・安心のニューディール」という言葉を使った。
これは、O大統領の「グリーンーニューディール」からヒントを得たのかも知れないが、適切な方向性を示している。
財政支出の拡大は、温室効果ガスの排出量を減らすための投資、具体的にはエネルギー効率向上のための投資、脱炭素でクリーンな代替エネルギーの開発投資、低炭素化設備への切り替えのための投資、および同じ目的の民間投資の補助など広義の環境対策が一つの柱である。
そのための長期計画を「スーパーエコ日本計画」として作成し、その支出を早める形で内需拡大の景気対策とすべきである。
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